総領事便り

令和6年4月28日
大隅総領事と桜の女王、プリンセスたち
MCの質疑応答に答える参加者たち
総領事便り 8
~桜~
令和6年 (2024年) 4月28日
在サンフランシスコ日本国総領事
大隅 洋

 
Sakura


 サンフランシスコの雨の冬がようやく終わり、春の到来を感じるようになりました。4月になり北カルフォルニアでは桜祭りが、各地で開催されました。私も日程が許す限り顔を出させていただこうとしました。


桜に心を寄せる
 桜が開花し、満開となり、そして桜吹雪が散っていく季節は日本の四季の中でも最も鮮やかなものです。子供のいるご家庭には学校の入学式に正門の桜の下で撮った写真が残っているものですし、桜の風景を求めて家族や友と花見に出かけるのに心が浮き立ち、樹下で頬をピンク色に染めて酩酊しがちになるのも微笑ましいものです。(酔い潰れて樹下で寝てしまった不明は別として)。春の到来は人生の喜びでもあります。
 日本には古来より桜を詠む名歌も数多くありますが、江戸時代に「古事記」「源氏物語」研究を大成させた本居宣長は、山桜を愛し、  
 
敷島の 大和心を 人問はば 朝日ににほふ 山桜花  

という歌を詠んでいます。「やまとごころ」を問われれば、春の朝の光に香り立つ山桜の花であるという宣長の情感は、四季に移ろいゆく風情などによって生じるしみじみとした情緒をあらわす「もののあはれ」そのもので、日本人が桜に持ち続けた特別な感覚を表しているのだと思います。   
 今年の宮中歌会始で
 
かの日々に 移り来し人等 耕しし 大和と呼ぶ里 アマンドの花
 
と詠まれたロサンゼルス在住の川崎ハルコさんの短歌が入選されていました。19世紀に移住してきた日系人の方々は、アマンドの花を桜に見立て故郷(ヤマト)を懐かしんでいたのでしょうか。


第57回北カリフォルニア桜祭りに参加して
 その後の戦中の日系人の強制収容や、戦後の日本町の苦難の歴史を経た上で、1968年に北カリフォルニア桜祭りは開始されたそうですが、「桜」祭りとしたその思いは特別なものがあったでしょうし、私も今回第57回の桜祭りに参加させていただいて大いに感じるところがありました。
 それにしても、カブキホテルからカブキシアターまで、モールの店々、出店や屋台の数々、屋外ステージ、踊りや演舞、太鼓、餅つき、そして北カリフォルニア日本文化コミュニティセンターでの書道や華道の実演など隅々まで歩きましたが、どこも人、人、人、と大変な賑わいでした。サンフランシスコ日本町は普段でも週末大賑わいですが、破格のエネルギーでした。日系人のここまでの頑張りがサンフランシスコの町の一風物詩として完全に定着していること、そして日本のブランドの高さに、日本の外交官として改めて誇りを感じた次第です。

 私は、7日のクイーン・プログラムから始まり、6つのイベントに参加し、そのうちグランド・パレード以外は其々の場に応じスピーチをさせていただきました。

 ~7日のクイーン・プログラムは、華やかさだけでなく、知性、そしてリーダーシップを以てコミュニティのシンボルとなるクイーンを選出する大会で、五人の候補者夫々のスポンサー達の賑やかな声援合戦が新鮮でした。私は、魅力にあふれたクイーン候補者達を前に、明治の情熱的な女流詩人与謝野晶子が詠んだ「清水へ 祇園をよぎる 桜月夜 こよひ逢ふ人みな美しき」という和歌を紹介し、私なりの桜に対する特別な情感を紹介しました。  
お祓い式で乾杯の様子
シニア・アプリシーション・ブランチの様子
 ~13日の開会式では、ピースプラザの観客席を埋めた方々に、直前の岸田総理のワシントンDC訪問に言及しつつ、日本とアメリカの交流の歴史的文脈の中で桜祭りへの大きな期待を述べさせていただきました。

 ~19日のフレンドシップ・レセプションでは、サンフランシスコ日本町関係者のみならず、クパチーノ、デービスなど近郊の街から来られた桜祭り関係者、ロサンゼルスやハワイから来たクイーン及びプリンセス達、日本から来られた神田明神禰宜や琉球舞踊や音楽家の方達とご一緒したのを踏まえ、このようなネットワーク、そして草の根の交流の貴重さ、大切さに言及させていただきました。
フレンドシップ・レセプションの様子
 
 ~20日の樽神輿お祓い式はピースプラザとオオサカ・ウェイ(ブキャナン通り)の間で行われ、多くの人が立ち止まってくれたたので、神輿は日本の祭りのシンボルであり、神輿に居る神霊が街を練り歩くことにより人々に幸せをもたらすこと、そして神輿が揺れれば揺れるほどより多くの幸せをいただけるので、明21日のグランド・パレードに来て大きな掛け声をかけて神輿を揺らしてください、と呼びかけさせていただきました。お供えする餅をつく鏡会の餅つきにも多くの人が集まっていましたので、私も餅つきに参加して一肌?脱がせていただきました!

 ~21日のシニア・アプリシエーション・ブランチでは、サンフランシスコだけでなく近隣の日系の方でコミュニティに貢献したシニアの人達の表彰をお手伝いし、現在の日系世代や日本人にとって先達の日系人達の貢献は計り知れず、総領事館としても、日系人の歴史と貢献を伝えていくべく努力したい、また日系人と日本人の対話・協力を推し進めたいと申し上げました。
当館館員によるパレード
パレードの有終の美を飾る樽神輿連
グランド・パレード 
 21日は朝から快晴でぐんぐん気温も上がり、ピースプラザの桜も7~8分咲きまでになりました。午後には桜祭りのハイライト、グランド・パレードは市庁舎から日本町までの道のりです。私達総領事館チームも9番目ということで、早々に市庁舎前を出発し、日本町までの2キロほどを往きます。私と妻はオープンカーに乗ったわけですが、こんなのは初体験で、嬉しいやら照れくさいやら。でも沿道から手を振ってくれている子供達の姿に、一所懸命に手を振り返しました。春の輝く光の中、手を振る人々の笑顔、暖かい声援、はためく日米の国旗、はとても有り難き忘れ難いものになりました。
サンフランシスコ市庁舎前での記念撮影
観客に手を振る大隅総領事夫妻
 パレードは、地元消防のハシゴ車や警察の騎馬、地元政治家、日本の商工会、日本町関係の教育、宗教、シニア向けサービスなど様々な団体、日本語クラスのある地元小学校生や高校生、舞踊や踊り、太鼓、100匹以上の柴犬、コスプレのグループ、クイーンやプリンセス達、など様々な団体が参加していました。  
 トリの樽神輿は、100人以上の男女が担ぐ、樽神輿は3段立てで、上に乗る3人の猛者達は縄一つ腕一本で神輿の上に乗り扇子を操り、担ぎ衆に、そして沿道の観衆にソイヤ!ソイヤ!と掛け声をかけます。樽神輿連の群声は観衆の歓声と合いまり、祭りの盛り上がりは最高潮に。とにかくものすごい迫力で、一緒にいた息子もホンマモンの祭りのど迫力に衝撃と感銘を受けていました。 春の華、でしたね。
岸守首席領事とサンノゼ日系祭り関係者
挨拶をする大隅総領事
二百五十本の桜
 4月9日~11日に岸田総理がワシントンDCを訪問しました。この訪米は日米関係上とても重要な意義を持つものだったので別稿改めようと思いますが、総理が連邦上下両院合同会議で行った演説は、内容、そして会場を沸かせたジョークや個人的エピソードなど非常に好評だったと承知しています。
 
米国連邦議会上下両院合同会議における岸田総理大臣の演説
「未来に向けて ~我々のグローバル・パートナーシップ~」 (令和6年4月 11 日)

 その中でも、「桜」に関するイベントが二つありましたのでご紹介しておきます。
 まず、総理は滞在中に全米日系米国人慰霊碑を訪問し、日系人初の連邦議員だったダニエル・K・イノウエ氏の生誕百周年を記念し、日系米国人の歴史が次世代へ継承されていくことを願い、ソメイヨシノの苗木を植樹しています。
 また、ワシントンDCのポトマック河畔の桜は全米でつとに有名ですが、総理は上記議会演説で、日本の友情の証として、2026年に建国250周年を迎える米国の一層の発展を祈念し、250本の桜の寄贈を決定したことを発表しました。日本から運んできた桜の苗木の寄贈式にも出席し、桜が日米間の固い絆の象徴としてとこしえに咲き誇ることを願う旨述べました。同席していたバウザー・ワシントンDC市長等から、ワシントンDCの桜は米国が歴史上外国から受け取ったギフトの中で、ニューヨークの自由の女神と並んで最も重要なものである旨の発言があったとのことです。なお、ワシントンDCの桜は1912年、尾崎行雄東京市長(当時)を始めとする日米双方の多くの関係者の尽力により、日米の平和と親善の象徴として約3,000本の桜が日本からワシントンDCに贈られたものです。


関係者へのお礼
 21日は岸守首席領事が、サンノゼ日系祭りに参加し、日本文化や日系米国人の文化が継承されていることへの喜びと、新しい世代のリーダーたちがこのお祭りを盛り上げてくれていることへの感謝を表しました。サンノゼらしいほのぼのと暖かいお祭りだったと聞いております。日系まつりファンデーション理事長のモシェル・カドクラさん、日系まつりを支えて下さっている皆さま、ありがとうございました。
 27日は、クパチーノの桜祭り開会式に出席しました。クパチーノ市は愛知県豊川市と半世紀近い姉妹都市関係が続いていますが、今年3年ぶりに中学生交流が復活し、夏には20数名の中学生が豊川市を訪れるとのことで訪日メンバーが発表されていました。このような子供達がその後に高校で日本語履修を選択し、さらには日本専門家、あるいは親日家として育っていくことを強く希望します。当館には、地元クパチーノ出身で、中学生の時に姉妹都市交流で豊川市を訪れ、その後地元の高校で日本語を勉強したサブリナ職員が働いてくれていますが、今回、サブリナ職員を地元で日本語の勉強に頑張っている高校生代表と一緒に壇上に上がってもらい写真撮影をしました。クパチーノ・豊川姉妹都市協会会長のアリサ・サッカスさん、桜祭り関係者の皆さま、ありがとうございました。
 4月は、桜、桜であっという間に過ぎてしまいましたが、当地に赴任して半年強、色々な方に会えて、コミュニティの全体像がよくわかりました。祭りに集う知り合いの皆さん、初めてお会いした皆さん、そして北カリフォルニア桜祭り共同委員長のマット・ナガトミさん、ユキ・ニシムラさん、桜祭り理事長のキヨミ・タケダさんをはじめとする桜祭り実行委員会の皆さんなど色々な人たちの笑顔、素晴らしかったです。拝見できてとてもよかったです。
 ありがとうございました!