総領事便り

令和6年7月23日
Emperor's Birthday Reception Kagami Biraki
Emperor's Birthday Reception
総領事便り11
~公邸での設宴 (1)「話題」と「セッティング」と「お土産」~
 
令和6年 (2024年) 7月23日
在サンフランシスコ日本国総領事
大隅 洋
 

 総領事としての最も重要な仕事の一つは、当地の人達を公邸にお迎えし、飲食を共にして人間関係を育てていき、また日本からの来訪者との出会いの機会を提供していくことです。互いのオフィスを行き来するのも良いのですが、やはり日本流に言えば「杯を重ね」胸襟を開いて話し合うのは格別です。一方で、「日本の総領事の公邸に来た」ということを本当に喜んでいただくことは簡単なことではありません。人様の時間を頂くにふさわしい「一期一会」をどう演出するか、日々頭を悩ませ改善を積み重ねているところです。接宴といえば「食事」と「お酒」と「お茶」が頭に浮かびますが、それは次の機会に回し、今回は舞台装置について少しご説明します。

 
AAPI reception
「話題」と「セッティング」と「お土産」  
 サンフランシスコ総領事公邸は、良いロケーションと眺望を有する立派な建物の国有財産で、各国総領事からも高く評価されているのは有難いことです。当地の名士に来ていただくには申し分の無い施設ですが、どのような時間を共に過ごせば帰り際に「今日は来た甲斐があった」と思っていただけるか、そして何を持って帰ってもらいたいのかを考えることはホストの最大の仕事です。そのためには「話題」と「セッティング」と「お土産」を考えることがとても大事になってきます。  

 例えば先6月には「宇宙」と「スタートアップ」をテーマに日米の関係者を糾合する昼食会を開催しましたが、集まった日米十人の関係者の殆どが互いに初対面の中で、どのような「話題」で緊張感を解きほぐし、活発な意見交換に持ち込めるかについては頭を捻らされました。そこで冒頭に、日本で宇宙が如何に人気あるのかという話をし、たまたま日本から持ってきていたマンガ「宇宙兄弟」の地球の歩き方バージョン「地球の歩き方・宇宙兄弟」を紹介し、旅のプラニング、情報収集、予算、ベストシーズン、持ち物、服装、体力作り、宿泊、食事などの記載を説明し、笑いを取り、その上で、日本の宇宙スタートアップ関係者の話でキックオフしてもらいました。その後も、ベイエリアにおける宇宙テックの活動状況及びテック全体の活力、当地での宇宙団地構想、日本における国家安全保障戦略や今年4月の日米首脳共同声明の状況などを各参加者に次々と発言してもらい全体が流れるようにし、関係構築の呼び水としました。結果としてとても活発な意見交換及び互いの情報共有ができ、参加者の満足度が極めて高い、次、あるいはその次の次につながる食事会となりました。  

 また、今後の日本のことを多面的に考えれば、アジア系の多い当地で、日本がアジア太平洋諸国の仲間内でリーダーシップを発揮しておくための「セッティング」が重要と考え、アジア系米国人・太平洋諸島民ヘリテージ (AAPI) 月間の5月22日に、アジアの各国総領事、サンフランシスコ市の関係者、日系人、文化関係者、そして商工会などのビジネス関係者を招待したレセプションを開催しました。当日は、日中韓印豪尼蒙星越カザフスタン等の各国総領事が勢揃いしましたし、私の妻の発案で女性達の多くが民族衣装で登場してくれ華やかな会となりました。サンフランシスコ市儀典長で当地の名士のムドゥロルグ氏、AAPI月間各種行事をとり纏める当地有力者のAAPIヘリテージ財団代表クラウディン・チェン氏に加え、第二次大戦中に起こった日系人の強制収容の不当性を闘い戦時中は米最高裁に敗れたが1980年代になって再審を起こして勝訴したフレッド・コレマツ氏の業績を継承する娘のカレン・コレマツ氏が挨拶してくれました。クラウディン・チェン氏は、香港の移民の方から見た日系人コミュニティがアジア人地位向上へ果たした役割について触れてくれたのは興味深い視点でしたし、カレン・コレマツ氏に話をしてもらった日系人の苦難の歴史は未だそれを知らない参加者には新鮮に映ったようで、その後に何人もがコレマツ氏に話しかけていました。なお、ステージに上がったのが私を除いては皆女性でしたので、私も自身の挨拶はそこそこにして妻に一言喋ってもらいましたところ、ムドゥロルグ氏や各国総領事夫人も含む参加してくれた女性陣からは、「総領事夫人が挨拶をしているのを見たのは初めて。総領事の仕事はパートナーに支えられてのことで、このようなことはとても素晴らしい」と大好評でした。  
 
 
 このように、新しい人間関係の構築や、レセプション参加者の一体感は、総領事公邸に来てくれた人達が持ち帰ってくれる「お土産」となります。また、新しい発見或いは深い知見が提供できればそれも良い「お土産」となります。例えば、私は現在当館として力を入れていること、例えば当地の公立学校における日本語教育クラスの縮小問題や若手日系人と日本人の交流の拡大の課題について、日本人ビジネス関係者や当地文化関係者などにも機会あるごとに説明しています。日本語クラスの維持・拡大は日本の友人を増やす最も効果的な手段の一つで、日本のビジネス活動にも裨益しますし、第一、大人世代全ての人達にとって次世代を育てていくことは務めです。また、日系人の歴史と彼らが苦労する中で築き上げてきた「日本」への良い評判が、当地で今という時代に過ごす我々を支えてきているわけです。このような話をすると、皆さんが関心を寄せていることは手に取るようにわかりますし、有益な示唆にも富み、さらにはお手伝いの申し出もしていただけることもあります。  

 このような努力の結果として、一人でも日本に対する良いイメージ、敬意を持ってもらい、かつ日本と何かをやっていく「活動」に携わっていって欲しい、と切に期待しています。