総領事便り
令和6年6月24日


総領事便り10
~大技術革新時代において、日本のビジネスに総領事館として何を貢献できるか~
~大技術革新時代において、日本のビジネスに総領事館として何を貢献できるか~
令和6年 (2024年) 6月24日
在サンフランシスコ日本国総領事
大隅 洋
在サンフランシスコ日本国総領事
大隅 洋
歴史上サンフランシスコは貿易港かつゴールドラッシュの恩恵も受けた金融の中心地でしたが、サンノゼまでのベイエリア全体は、世界的な大技術革新の震源地と「変態」しています。昨年のサンフランシスコから出現した生成AIは衝撃でした。無人運転タクシーは市内では見慣れた風景となっていますが日本から来る出張者は感嘆します。今後は空飛ぶ車やヒューマノイドが登場します。また、量子力学も大きなインパクトを与えると言われています。Nvidiaやマイクロソフトなどの時価総額は単体で英や仏を抜いて日本にも迫ろうとしています。
このような大技術革新の時代に日本勢も必死に喰らいついていこうとしており、当地在留の日本人の数は増加傾向にありますが、日本の企業あるいは経営者で当地で名が轟くような会社が出てきているとは言えないのでしょう。また、「現在」だけでなく「将来」のことを考えてみても、日本人の海外留学者数は減少し、加州においても、日本人留学生数は全体の約3%にすぎず、国別では第5位です。コロナ禍そして円安もあり日本人留学生は戻ってきていない状況です。世界での日本の学術論文数シェア、被引用数が高い高被引用論文数シェアはともに減少しています。
日本には日本の良さがあります。匠の技という職人気質は高度な文化を生み出し世界の尊敬の対象となっていますし、日本のソフトパワーもそれが源泉だと思います。日本企業は実社会での経験の上に蓄積された知見とものづくりの技術を有し、粒の揃った人材があり、制度が整い規模感もある市場があります。アジアでのビジネスの経験値もあります。一方で日本人の完璧主義は「完璧未満」に対する厳しい態度、減点主義、失敗者に対する強い風当たりをもたらしてきました。とりあえず失敗してもいいからやってみて、「アジャイル」(臨機応変とでも訳しましょうか)にバージョンを重ねながら完成度を高めていくというやり方は職人からすると承服しかねるところもあるでしょう。米国を中心に大技術革新が進んでいること、これまでのように国内市場に依っていくことが難しく、米国(英語圏)市場に打って出ずには将来展望が開き難いことなどを考えれば、完璧主義を「緩和」しながらも自分達の強みをどう活かしてこれからのアウェイゲームを戦っていくか、智慧が求められます。ビジネスに携わる方々は企業としてどう自己変革しそれを行動に繋げていくか、あるいはスタートアップとして日本市場に安住せず世界相手にスケールアップしていくかのために日々苦心されていることと思います。
日本政府は、統合イノベーション戦略2024、スタートアップ育成五カ年計画など様々な取り組みで科学技術・イノベーション政策に突破口を切り開いていこうと努力しています。また、日本人の野心を高め、創造性を育み、完璧主義を緩和するには留学などで海外に触れること重要です。先の総理訪米時の日米共同声明でもイノベーションや経済安全保障のみならず、留学生減少傾向を反転させるための経済的な支援のテコ入れを含む様々な施策が発表されているのは心強いことかと思います。感受性の最も高い時期に刺激を受けるという意味でも中学、高校レベルで刺激を与えることの価値は高く、政府の教育未来創造会議 (議長:総理大臣) においても高校段階での研修旅行及び留学の増加が目標の一つとして掲げられているのは良い方向だと思います。
今年5月のサンフランシスコでの大規模なサイバーセキュリティの会議では、「デジタルの連帯 (digital solidarity)」のコンセプトが話された他、ブリンケン米国務長官は、(1) 新世代基盤技術が世界を変容させ、(2) デジタルと物理的領域の垣根が低くなっていることなどを踏まえ、テクノロジーの外交での位置付けを高め、在外公館における体制の強化にまで言及しています。総領事館としては引き続き官民のパートナーと協力し、他国の動きもよく見つつ、日本のビジネスの活動のために貢献していきたいと考えています。既に来訪した日本の女性起業家や医療関係者のピッチイベント開催に協力させていただきました。日本の起業家がシリコンバレーのビジネス・エコシステムに参入するのを支援することを目的として今年本格的に始動したジャパン・イノベーション・キャンパス (JIC) へも全面的に協力しています。ビジネスも社会の活動の一つであり、総領事館は経済だけでなく、政治、文化、領事など多様な機能を持っていますので、ビジネス支援には相乗効果を産むことのできるようにしたいと思いますし、ビジネス関係者におかれましてもそのようにお願いできればと思っております。また、科学技術関係では、今年1月に松本外務大臣科学技術顧問が来訪され当地での日本人研究者の生の声を聞き、研究者同士のネットワーキングの機会を提供することができました。森岡UCSF助教授には当館の科学技術フェローを依頼しており、当地在留の日本人研究者のネットワーク作りを支援していきたいと思います。



最後に、未来世代の教育は中長期で最も重要な投資であるので当館としてできることを支援していきたいと思っています。中高生については、学校自身のイニシアティブや姉妹都市交流の一環としての学校の休みの時に短期で訪問してきていると承知しています。当館としても丁寧にかつ積極的に支援していきたいと考えています。当地でのFriends of Japanの増大のためには、公立学校等で実施されている日本語学習の維持・強化は極めて重要で、みなさんと努力していきたい考えています。日系人、在留邦人 (短期も中長期の方も含め)、そしてFriends of Japanがより「繋がる」ために当館も役割を果たしていきたいと考えています。
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